夏の午後。
以前から知っていた広島県内では希少な炭酸泉の源泉が自噴している場所を求めて、車を県北の三次(みよし)に走らせた。
広島市の自宅からは、高速を使っても2時間近くかかる山中を目指す。
県北部の6つの市町村が合併した三次市の旧君田村内にある沓が原(くつがはら)という場所だ。だいたいの場所しか分かっていない。
なんとなくの場所に近づくと、近くに釣り堀をみつけ、そこで聞き込みをすることに。
ヤマメを釣りながら、年配の男性に源泉のことを聞くと、「連れて行ってあげよう」と言ってくれ、好意に甘えることにした。
自噴して茶色くなる炭酸泉の泡付きの源泉に感動
着いた場所は、道路に面しており、少しではあるが(分1~2リットル)茶色の炭酸泉がホースから流れ出ている。
すぐに飲泉すると、島根の三瓶(さんべ)と同じ炭酸泉の味がして納得した。
以前読んだ温泉雑誌に「三瓶~君田ライン」と記載があったことを覚えていた。
広島県内にもなみなみと炭酸泉があふれる事実に感動した。
50年ほど前までは、沓が原温泉という、温泉旅館が経営されていたそうで、周囲を見渡すと、コンクリートなどそのなごりがある場所がいくつが見受けられる。
小さな温泉だったことが分かる、少しの面影と歴史を、地元の方に好意で説明していただいた。
そして、現在も自噴するわずかな源泉を飲泉し、過去を想像しながら、未来が創造できればとおぼろげに考えた。
歴史に疎い自分が、こんなに歴史を感じたのは珍しくもあった。
老人によると、このあたりは、炭酸泉の源泉は掘れば出てくるであろうとのことだったが、量が少ないとのことだった。
現在、近隣には君田温泉森の泉が営業しているが、残念ながら循環・塩素消毒の湯で、源泉の魅力を感じることができない。
その後、三次のとあるワークショップで、この源泉を用いた旅館の再生を提案した。
そのワークショップに行けなくなり、まだアイデアは眠ったままだが、いつか、形にしたいという夢をひそかに温めている。


